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20世紀ウィザード異聞

第七章 3

 駅を出てしばらく歩いた後、突然エレインはオーリの腕を振り払った。
「なんで黙って見てたの、なんであたしに殴らせなかったの! あんな男、首をへし折ってやればよかったんだ!」 
 両手のこぶしを握り締め、緑色の炎を宿した目を光らせている。
「ああ、いいね。奴のだぶついた首をへし折ったら、さぞいい音がするだろ」 
 オーリは憮然としたままで答えた。
「そして? 君は捕らえられて処分されるのか。それとも管理区行きか?」
「知らないよ、そんなこと!」 
 風がエレインの帽子をさらっていった。白い花飾りがちぎれ、砂ぼこりにまみれる。
「あの子を見たでしょう? 禁じられた呪詛の言葉を使おうとしていた、まだ子供なのに。相手を呪うことで、自分も命を落とす罰を受けるのに! どんな思いでそうしたかわかる?」 
 呪詛。あの時少年の口元が動いていたのはそのためか。ステファンは思い出してぞっとした。
「わかるさ。だからわたしが止めた。駅という公共の場所で魔法を使った、そういう意味じゃ、あの髭男と同罪になったけどね」
「嘘だ、人間にはわからない。奪う側の奴になんか、わかるわけない!」 
 言い捨ててエレインは早足で歩き出した。オーリが後を追う。
「エレイン、どこへ行く? 家はそっちじゃないだろう」
「誰の家よ?」
 肩を捉えた手が払いのけられる。
「竜人の居場所なんてもうどこにも無い。契約という鎖に縛られて、魔力を与えられなければ生きていけない化け物、ええそうよ!」 
 赤毛を跳ね上げたエレインは、手袋に気付くと、忌々しげにむしりとって地面に叩きつけた。
「こんなもの!」 
 オーリは眉をしかめ、走り出したエレインに杖を向けた。光の輪に捕らえられて、エレインはびくっと立ち止まった。 
「頭を冷やすんだ、守護者どの。君はさっきの少年の怒りに影響されてる」 
 冷静な声を掛けながらオーリは大きな歩幅で追いついた。それを肩越しに振り返る緑の目に、怒りに満ちた光が揺れる。
「エレイン、一緒に帰ろうよ。風が冷たくなってきたよ、雨がふるかもしんない」 
 走って追いついたステファンは、懇願するようにエレインの手を引っ張った。 
 けれどエレインが怒りを収める様子は無い。緑色の目をますます大きく開いて、オーリを睨み据えた。
「そう。こうやって、竜人を狩ったんだ」 
 凍りつくような声だった。オーリが顔色を変えた。
「こうやって動きを封じて! 神聖な新月を狙って攻め込んだんだ、人間は!」 
「それは……」
「あたしは知っている。魔法使いは竜人狩りの尖兵だったんだ!」

 幾筋もの閃光が、雲の上で走った。
 いつの間にか雷雲が空に満ちている。
 竜人狩り? 尖兵? エレインの言っている意味がわからずステファンはオーリに問うように目を向けた。
 青ざめた顔のまま、オーリは乾いた声で答えた。
「そうだ。その通りだ」
 
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